CHANGEMAKERS #07 バイオテクノロジーで環境保全に挑む 為水 ひなた さん、榊原 聖瑛 さん、矢田目 翔理さん、(生命環境学群 生物学類 2年)
バイオテクノロジーで環境保全に挑む
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生命環境学群 生物学類 2年
為水 ひなた(ためすい ひなた) さん
榊原 聖瑛(さかきばら まさてる) さん
矢田目 翔理(やため しょうり) さん
iGEM TSUKUBA
生物の遺伝子などを設計?再構築し、新しい生物を生み出すことで、
環境問題や既存の農業の仕組みなどの社会課題に取り組んでいく、
「合成生物学」という学問分野があります。
この分野に特化した研究を行う学生グループ、
iGEM TSUKUBAで研究に打ち込む筑波大生、
為水 ひなた さん、榊原 聖瑛 さん、リーダーの矢田目 翔理さんを取材しました。
為水さんと榊原さんの二人は、10月27日(日)、「学生アイデアファクトリー」(主催:NPO法人日本科学振興協会(JAAS)という、自主研究に取り組む学生の研究アイデアを発掘?支援するプロジェクトに参加し、見事賞を勝ち取りました。それぞれの独創的な発想から合成生物学のアプローチに迫っていきます。
CHAPTER 1
ミジンコでプラスチック問題に切り込む ―為水さんの研究アイデア
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マイクロプラスチック問題はとても深刻です。プラスチックを分解できる細菌サカイエンシスの遺伝子を、水の濾過能力が高いミジンコの腸内細菌に付与して、ミジンコがマイクロプラスチックを分解できるようになったら、環境問題に貢献できないかな、と思いました。
イデオネラ?サカイエンシスという、2016年に大阪府堺市で発見されたばかりの細菌です。ペットボトル処理工場で見つかった、ポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して栄養源にする細菌です。極限状態でも生きられるようにするためにそのように進化してきたのでしょう。
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サカイエンシスをそのままミジンコの腸内に入れてもいいのですが、ミジンコの体内には、人間と同様にたくさんの腸内細菌がいて、競争してせめぎあって、より強いものが優位に生き残れるような形になっているので、急に第三者の細菌を入れてもすぐには定着しないんです。そこで、あえてこの腸内で優占している強い菌を取り出してきて遺伝子組み換えすることで、確実に定着させるという手法を考えています。
サカイエンシスは、ミジンコの腸内でPETのポリマーを酵素によって低分子のエチレングリコールとテレフタル酸に段階的に分解し、それを他の細菌に栄養源として取り込んでもらうという仕組みです。元々、人間が使いやすいように、分解できないように合成されたものを、こうやって自然界の力で分解して、無害になるどころか、むしろ他の生物の栄養源になってくれるんです。
そうですね。遺伝子組み換え生物は、本来自然界にないものなので、応用する際は倫理的な問題もありますが、利用だけに目を向けるのではなく、学術的な意義が見出せたらと思っています。腸内細菌を遺伝子組み換えするという研究自体は今までほとんどなかったので、もしこのアイデアが実現できれば、他の動物の腸内細菌を組み換えるとか、いろいろな可能性が広がると思います。
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はい。最初はミジンコが好きというところから始まりました。高校の時は、ミジンコの卵のでき方や栄養との関連について調べていました。今でも、ミジンコを近所で採取してくるのが趣味です。大学の池にもたくさんいますよ。
学生アイデアファクトリーを通して、たくさんのミジンコのスペシャリストとの繋がりができました。今後はその人たちに会いに行きながら研究を深めていきたいです。
CHAPTER 2
生態系ネットワークを機械学習で予測する ―榊原さんの研究アイデア
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単純な構造の動物である海綿が持つ「水溝系」という機能を、機械学習の観点から解明しようという研究です。
はい。よく海藻などと間違えられやすいですが、れっきとした動物なんです。ただ、多くの動物が持つ神経系や脳や心臓などの器官を持たず、移動する能力もありません。でも、体表にある無数の穴から海水を取り込み、体内の水路のようなものを循環させながら、有機物を消化してエネルギー産生や生殖を行っています。これが「水溝系」と呼ばれる仕組みです。
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海綿が成長して大きくなるにつれて、そのネットワークがどんなふうにこう成長していくのかを調べる方法が今はなく、それを何かしらの方法で予測したいというのがこのアイデアのきっかけでした。着目したのは、リザバーコンピューティングという手法です。時系列的に変化するデータを扱うのに適しており、経時的に変化すると考えられる海綿のネットワーク予測に好都合だと判断しました。
まず、海綿から現時点のネットワークを取り出して標本をCTスキャンして内側の構造を明らかにします。そこで再構築したネットワークの情報を学習させて、処理をする層にもそのネットワークを入れて、自分のネットワークで自分のネットワークを予測させるという流れです。
今年のノーベル物理学賞を受賞したのは、ニューラルネットワークに関するものでした。これは名前の通り、人のニューロンを模して処理の部分を作っているのですが、神経系を持っていない動物のネットワーク使って計算がうまくいったり、ある動物自身のネットワークでその動物の問題がかなり正確に解けたりしたら、それだけでちょっと面白いですね。
はい。ゆくゆくは、この手法を他の生き物やより大きな生態系に広げて考えていきたいです。気温や雨量などを含めて、それらが相互作用し合う大きな生態系にも応用できたら、例えば、生態系のネットワークを仮想的に作り出し、そのネットワークを使って自身の時系列的な変化を予測させて、生態系の種数や作用している数を維持、あるいは増やすネットワークができる。それが、ひいては生態系保全に繋げられるのではと考えています。
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そうですね。このプロジェクトは、実証とか実験系を作っていなくても、その手前のところをまで持ってくれば見てあげるよ、というコンセプトでした。 学会とは違い、参加者の専門や興味のある分野はバラバラで、まだ本格的な研究をしたことがない高校生もいたので、自分のアイデアをブラッシュアップさせる機会になりました。
今回の研究アイデアが実現したら、個体や生態系に関する問題について、スパコンを使った重い計算や機械学習に頼らず、コストをかけずに社会的なレベルで効率を上げられると思いますし、もしそういう方面に発展したらすごいなと思っています。
CHAPTER 3
「合成生物学のロボコン」― iGEM(アイジェム)と365体育投注での活動
今回受賞した二人の研究アイデアは、合成生物学の観点から生み出されたものでした。合成生物学とは、生物の遺伝子や細胞の構成要素を設計し再構築することで、自然界には存在しない新しい特性を持つ生物やシステムを作り出すことを目的とする学問です。医療、エネルギー、環境、農業など、さまざまな分野での応用が期待されています。 ここからは、矢田目さんを中心にお話を伺っていきます。
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合成生物学には二通りのアプローチがあると解釈されていて、一つは、生物を合成する、つまりゼロのところから、生物の細胞や一部の機能を人工的に構築していくというアプローチです。もう一つは、生物の(元々備えている)機能を持ってきて新たにシステムを構築する、エンジニアリングするというアプローチです。
毎年11月頃にパリで開催されています。「合成生物学のロボコン」とも呼ばれていて、各チームが合成生物学に関するプロジェクトを立ち上げて、その成果を競います。2024年大会では、各国から4000人以上が参加し、全400チームのうち日本からの出場は7チームでした。過去の大会の入賞者の中には、後に研究成果をもとに起業するケースもあり、産業界からも注目されています。
はい。iGEM TSUKUBAは2022年、生物学類の学生を中心に作られました。現在、顧問の鈴木 石根 教授、前田 義昌 准教授(共に生命環境系 所属)のもと、男子14人、女子9人の計23人の学群生が活動しており、為水さんと榊原さんもその一員です。メンバーは生物学類の学生が中心ですが、化学類や工学システム学類の学生も所属しています。
生物学の視点だけではないような新たな視点や素養?能力も、大会で戦っていく上には重要だと思います。いろんな学類からいろんな専門性を持った人たちが入ってきてくれるとすごくありがたいですね。
そうなんです。「海洋生物付着疎外剤の生合成」というテーマのもと、様々な研究教育活動を通じて得られた成果だと思います。メダルは、各評価項目を達成することで得られる絶対評価なので、今後はヴィレッジアワードという部門賞などの相対評価の賞も目指しています。
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iGEMには、Education(高校への出張活動)、Wiki(ホームページの立ち上げ)、Presentation(研究成果報告の資料作成)、Hardware/Software Tool(研究に必要なツールの開発)、Entrepreneurship(社会実装に向けた検討)など、さまざまな評価基準が設定されていることから、団体のメンバー内でもそれぞれ役割分担を行って活動しています。
組織体制としては、主に、専門性の高い研究活動を行うテック班と、資金面のやりくりや教育活動などの対外的な面を担う総合運営班の二つの班があります。また、Webページの管理や研究成果の社会的影響力の調査などを担うグループもあります。
日頃は少人数でのラボでの実験や個人での研究等を進めていき、週に一度の全体ミーティングで、各自の成果報告や今後の方針を決めていきます。教育活動では、高大連携の一環として、国内の高校への出前授業や、GFESTの参加学生との交流も行っています。遺伝子組み換え実験の体験や、合成生物学の認知度を高めるための活動が中心です。iGEM出場のためのプロジェクトだけでなく、365体育投注内の合成生物学や分子生物学が好きな人が集まるコミュニティを目指しています。
優秀な人や研究熱意のある人も多いので、学部生の研究や教育活動も含めた活動の場になっていると思います。そうしたところを今後も残せるように、体制を整えたり、外部とのコネクションを作って活動の幅を広げたりして、ある程度影響力のある団体運営をしていきたいです。
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2025年大会に向けたテーマは、「AIを用いたタンパク質の多目的最適化」です。農作物の収穫量やコスト削減につながる高性能なタンパク質の生成をディープラーニングにより実現しようという試みです。
今動かしているプロジェクトでは、ちょうど今機械学習ベースの改良方法が今実証段階まで来ていて、うまく動いているかを確認しています。失敗したら改めて改良の余地を考え、成功したら、それを実際にシステムとして組み込んでいきます。
活動する中で、365体育投注発のベンチャー企業の方とお話をする機会もあります。こういうタンパク質の改良方法がありますよ、いくらで受けますよ、じゃあそこれでやってみましょうか、というような感じで、どのようなシステムで動かしていくかについて、助言をいただいています。
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はい。活動にあたっては、資金面での課題も大きいです。iGEMの大会は登録費に80万円、参加費に40万円がかかり、研究費や渡航費などを合わせると、少なくとも250万円以上の資金が必要になります。研究費については、大学による研究支援「エンブリオ?プログラム」から年額40万円、民間の財団から50万円の助成を受けていますが、依然厳しい状態にあります。独自にクラウドファンディングを実施してきましたが、今後も様々な企業からの協賛を得られるよう精力的に活動していきたいです。
榊原さん エンジニアリング担当としては、うまくいってほしいと思います。結果次第でこれからの仕事量も決まるので。
為水さん 私は主に実験の方を担当していますが、今の1年生に実験のノウハウや研究室の使い方などを教える時期なので、頑張っていきたいです。
矢田目さん iGEM TSUKUBAは様々な活動をしていますが、こうした積み重ねで、賞としての成果もきちんと残せるようにしていきたいです。今目指しているのはグランドプライズ(総合優勝)です。
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学生アイデアファクトリー
全国の大学生?高専生の独創的なアイデアを具体的な研究計画へ落とし込んでいく過程を支援するプロジェクトで、2023年にスタート。参加者は、サマーキャンプやアクセラレーションプログラムと呼ばれるプログラムで、研究者や企業関係者からのサポートを受けながら、アイデアを磨いていく。10月27日には、受賞者を決定するファイナルプレゼンテーションが「サイエンスアゴラ2024」(主催:科学技術振興機構)の一環として、日本科学未来館で行われた。56通の応募の中から、最終的に8名の学生が表彰された。
[聞き手 広報局職員]
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