平成28年度 日本エピジェネティクス研究会奨励賞
生命領域学際研究センター 松﨑 仁美
教職員等
日本エピジェネティクス研究会奨励賞(JSE young investigator award)は,日本エピジェネティクス研究会が,エピジェネティクス研究を推進する若手研究者育成のため,同分野において重要性?インパクトを有する研究を行なっている者に贈るものである。主要な論文および関連する業績,研究者としての将来性等を合わせて考慮し,同研究会の賞等選考委員会が選考を行い,幹事会で承認される。
松﨑仁美助教(生命領域学際研究センター)は,本年度の同賞を,「受精後アリル特異的de novo DNAメチル化によるゲノム刷り込み制御」の題目で受賞した。
哺乳動物では,遺伝子のDNA塩基配列以外にも親から子に伝わる情報があり,子供世代での遺伝子発現調節に関与することが分かってきた。ゲノム刷り込み(genomic imprinting)と呼ばれる現象では、同一の遺伝子であっても,それが父親と母親から受け継がれた時で,遺伝子発現の挙動が変化する。ゲノム刷り込みにおいて親から子に伝えられる情報(エピゲノム情報)の実体は,特定の遺伝子で起こるDNAの「メチル化」修飾である。したがって,親の生殖細胞(精子または卵子)でその状態に差を生じることが,子供世代におけるゲノム刷り込み制御に必須であると長らく考えられてきた。
松﨑助教は,多様な遺伝子改変マウスを作製し,それらを組み合わせて解析することで,「ゲノム刷り込みの基盤となるDNAのメチル化は,生殖細胞だけではなく,精子と卵子が受精した後の受精卵でも起こる」ことを発見した。「受精後メチル化」のためには,精子由来のゲノムを選択的に認識する酵素が必要であり,この認識に関わるDNA配列や,触媒に関わるメチル化酵素を明らかにした。さらに,この新奇メチル化が,子供の正常な成長に必須であることも証明した。
松﨑助教のこれまでの研究は,哺乳動物の代表的な「エピジェネティック」制御であるゲノム刷り込みについて,新たな理解を加えるのみならず,個体発生メカニズムの一端を解明した点で基礎生物学的な重要性を持つ。また,ゲノム刷り込み制御の破綻が疾患を引き起こすことがヒトにおいても知られており,医学分野への貢献や将来への発展が期待できる。