今年度は第3期中期目標期間の4年目にあたります。昨年12月に独立行政法人大学改革支援?学位授与機構が発表した文書によると、2020年度に4年目終了時評価を行い、中期目標期間終了時評価では4年目終了時評価結果を変えうるような顕著な変化がある場合や、4年目終了時評価時に「改善を要する点」として指摘した内容の改善状況等について評価を実施するとあります。したがって、基本的な第3期の評価は今年度までの成果でほぼ決まることになります。このことの意味は、第3期の目標や計画については、今年度中に達成の目処を立てる必要があるということです。この達成状況は言うまでもなく今後の運営費交付金の配分に反映されます。本学は、第1期、第2期の中期計画の評価においては、計画の達成度がほぼ順調という段階の評価を受け、その結果第3期の運営費交付金額はそれまでに比べて増加することはありませんでした。したがって、今後の本学の体力を落とさないためには、各計画について本部と各組織の双方でKPIの達成状況を点検し、遅れのある事項については急いで手当をしなくてはなりません。さらに第3期の残りの2年では、4年目までで達成できていないことを仕上げるだけではなく、先々を見据えて各計画の到達度をより高く設定し直して、第3期中期計画を文字通り十二分に達成することが求められていることになります。その際、20%の増加部分の計画を支える基本的な考え方として、本学の「独自性の発揮」(本学が「独自に実践」という意味を含めて)という視座を据えたいと考えています。それを基盤に、20%の増加部分の具体的な行動を考えるための中核的な観点を、我が国の人口動態、社会の将来像、指定国立大学への挑戦の3点としたいと考えています。
独自性の発揮に向けて
戦後の国立大学の歴史は、1947年の学校教育法の制定と1949年の国立学校設置法に基づいた新制国立大学(国立複合大学)の設置、および旧帝国大学の国立総合大学への移行から始まっています。国立総合大学について重視されたのは専門職業教育と研究機能であり、国立複合大学については地方産業の発展に貢献する必要性も盛り込まれていました。1963年の中央教育審議会(中教審)の答申では、高等教育機関の類型化/種別化が提言されており、総合大学の大学院大学化、および総合大学と複合大学の両者に研究能力の高い職業人を養成する修士課程を設置できるなどの提言が盛り込まれていました。しかし明らかに本学の成り立ちはこれらの大学とは異なります。本学は日本初の高等教育機関として設置された師範学校を創基とし、1973年に新構想大学として開学しました。「開かれた」大学、「不断の改革」を進める大学を標榜して出発した本学は、理念的にも法的にも、わが国でほかに類のない国立大学であり、独自の道を歩み続けてきました。したがって365体育投注に求められているのは、まさに未来構想大学として独自の大学像を創出し、他の大学に先駆けた大学改革を先導することです。
現在、我が国の高等教育は2つの大きな課題に直面しています。それは物理的に容易に変えることができない人口動態と国の財政問題です。現在の18歳人口は118万人程度ですが、2030年には約100万人、2040年には約80万人台まで減少します。過去には、第二次ベビーブームが初等中等教育に影響を与えることを考慮して1966年頃から国立大学教育学部の入学定員の増員が行われたこと、あるいは右肩上がりの急激な高度成長時代を支えるための理工系の拡充などの事実もありました。18歳人口の減少に直面して今度は逆に文部科学行政として入学定員の削減が進められる可能性も現実味を帯び始めています。進学率を飛躍的に増加させるなどの施策の転換などがないかぎり、また本学が今と同質の学生を求め続けるのであれば、学士課程入学定員は人口減少に応じて減少させていくしかありません。入学定員が削減されると、授業料収入も減りますし、それに応じて教員数や運営費交付金も削減される可能性もあります。大学にとっては、これまで通りの教育研究の維持が危ぶまれる深刻な事態となります。しかし、単純に人口減少にしたがって大学の入学定員を削減すれば良いというものではありません。グローバル化やデジタルサイエンスが進展する社会においては一定数のそれを支える人材が必要です。知識基盤のみならず、スポーツ分野、創作分野などにおいても同様であり、幅広い層があってはじめてトップレベルが保たれます。必要な総数をいかに確保し、育成するかという議論が必要です。
我が国の社会構造も大きく変わりつつあります。その中核にあるのが急速なデジタルサイエンスの進展です。Society5.0は、第5期科学技術基本計画で提唱された未来社会の姿であり、サイバー空間とフィジカル空間を密接に融合させることで、我々のあらゆる活動や社会課題の解決を推進する社会だと考えられています。また、我が国は高齢化の先進国です。高齢化の進展は、人生100年時代の到来と言い換えることもできます。人生100年時代構想会議中間報告には「100年という長い期間をより充実したものにするためには、幼児教育から小?中?高等学校教育、大学教育、さらには社会人の学び直しに至るまで、生涯にわたる学習が重要」であると述べられています。あるいは、地方創生の課題です。諸外国以上に首都東京一局集中の状態にある我が国の社会、経済、産業構造は地方?地域の活力を利用しながらも、それを底から支え、それらの新たな発展を牽引するかたちとはなっていません。現在の欧米の企業の立地分布?分散を見れば、我が国の東京への集中度の高さが例外的であることが理解できます。デジタルサイエンスの急激な発展は、産業構造の労働集約型から知識集約型への転換を推進しています。スマート化が進むことで、地方?地域における現業は大きな潜在力を持った現場になると考えられます。地方?地域を基盤とした社会の実現についてもしっかりと考察する必要があります。国立大学である本学はこうした観点について本学なりに解釈して、研究?教育の中に位置付けていく必要があります。国の財政の逼迫している中では、外部資金の獲得のチャンスと捉えることもできます。
アカデミアの自由を維持していくため、また本学の独自性を発揮するためには、その条件を整えなければなりません。平成28年の国会で成立し、平成29年度から施行された国立大学法人法改正により、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を文部科学大臣が「指定国立大学法人」として指定することが可能になりました。指定を受けると、国際的な競争環境の中で世界の有力大学と伍していくことが求められ、その取り組みを進めるためこれまで国立大学法人ではできなかった出資事業を拡大できるなどの規制緩和が受けられます。これまでに6大学が指定を受けています。本学は、前回(平成28年度)公募の際は申請の前提条件の一部を満たしていなかったため応募を断念しましたが、本学の目指す将来像に鑑みると、次回(第3期中期計画期間の5年目と想定されています)には満を持して応募する必要があります。
独自性のある教育を目指して
本学の教育上の独自性を発揮するための方策の一つは、学位プログラム制への全面的移行です。ようやく昨年11月の中央教育審議会の答申の中で、学位プログラム化の重要性、必要性が謳われ、それを実現するための議論が文部科学省の中で始まっています。一方、本学にとってはそれ自体が第3期中期計画の一つです。学校教育法第八十五条ただし書きを背景とする開学時から認められている学群?学類においては、今年度から学位プログラムを充実させる新カリキュラムが導入されます。その中の眼目の一つは、Society5.0に関連して、AIとその基礎となる数学やデジタルサイエンスに関する教育の充実です。また、昨年の所信の繰り返しになりますが、特定の職業に就くための技芸に縛られない自由な学芸がリベラルアーツです。「今の子供たちの65%は大学卒業時に今は存在していない職業に就く」あるいは「今後10~20年で雇用者の約47%の仕事が自動化される」といった予測を新聞等で目にします。今の学生に必要なのはまさに特定の概念に縛られず、人がやるべき仕事を新たに生み出していくためのリベラルアーツです。本学の学生がVUCA(Volatility,Uncertainty,Complexity,Ambiguity)の時代を生き抜くために一番必要なものを身につけることができるようなリベラルアーツを念頭においた工夫も実装されます。
一方、学校教育法第百条ただし書きを基盤とした大学院の学位プログラム化については、今年度中に文部科学省の認可を受け、来年度からの導入となります。本学はこれらのシステムを最大限に活用して、学問分野間の壁、学内組織間の壁、機関間の壁、社会との壁、国境などあらゆる壁を越えた本学ならではの教育に磨きをかけ、トランスボーダーな人材を育てていくことを宣言しています。学問分野間の壁を越える点では、一つの分野を専門とする者が他の分野を専門とする者と協働するかたちは現在のものです。これを加速するためには、一人の者が両方の分野を横断的に学び、身につけて、さらに他の能力を身につけた他者と協業するモデルが想定できます。この点は、人材育成にとっても重要な観点となります。
こうした取組を進めるにあたっては、これを管理運営ならびに検証するシステムも重要です。その機能を持つ学内組織として、教育イニシアティブ機構を改組して「教学マネジメント室」の創設の検討が始まっているところです。この組織は、いわば学内の大学設置審議会(学位プログラムの設置、アフターケア、改廃などについて審議)と認証評価機関の機能を併せ持ったものとなる予定です。教育の評価も重要です。しかし、教育の正確な成果は短時日で問うものでもありません。例えばダイバーシティ?アクセシビリティ?キャリアセンター(DACセンター)を中心に卒業生?修了生の活躍を定性的、定量的に捉える指標を用意し、今からモニタリングしていく必要があると考えています。
すべての国民に質の高い高等教育への機会均等を担保するとともに、我が国の活力を支える人材を輩出していくのが国立大学の基本的な役割の一つです。18歳人口の減少に合わせた学生定員の削減に繋がる議論も出始めている中で、社会の進展を支える人材総数を確保する方策と学修成果の向上を通じて養成される人材の質の向上、すなわち人材の量と質の積の向上でこの問題に対応することについて、全学で議論を行い、本学にとって最善の方策を選びとっていく必要があります。現在のままの学生リクルート方策や教育方策などを続けるだけでは、今以上の高い水準の人材を今以上の総数で輩出することは困難です。
引き続き国内から学士課程入学者を集める努力は不可欠です。特に、これまでに発掘されていなかった才能を見出す努力は重要です。この点については入試の改革が必然です。国立大学では平成32年に向けて、各大学独自の入試(分離?分割方式による前期?後期日程入試のみならず、推薦入試、AO入試などを含む)の改革を進めています。本学の個性を活かすディプロマポリシー、カリキュラムポリシーに基盤をおいたアドミッションポリシーに基づいた独自の検討が必要です。
加えて、今後、人材の層を確保するためには優秀な外国人学生のリクルートが必要だと考えられます。外国籍の優秀な学士課程入学者の受け入れを拡大していく方策について真剣に検討しなければなりません。本学の特徴を持った教育は、外国人卒業生?修了生に我が国において知的な財産を生み出す貢献を促すだけではなく、次への出発点を付与できるはずです。すでに入学定員の5%については、従来の英語プログラム、地球規模課題学位プログラム(学士)、Japan-Expert(学士)プログラム、総合理工学位プログラム等を活用して留学生の定員化を進めていただいています。優秀な留学生の確保の観点からは、諸外国における学生募集活動の強化や教育の国際展開も考えなければなりません。優秀な外国人学生の争奪戦は世界規模で進んでいますが、我が国はこの点では遅れをとっていると言わざるを得ません。海外の大学に所属する学生だけではなく、中等教育や大学を修了して直接我が国の学士課程および大学院課程に入学してくる学生のリクルート方策を本学独自に強化しなければなりません。
もうひとつのニーズは、リカレント教育を志向する社会人です。社会人の中には、急激な社会変化の中で知識?技能をアップデートする必要を感じている人も少なからず存在するため、専門性の高い高度なプログラムへのニーズは高いはずです。本学が学士課程での社会人受け入れを強化することは考えていません。実際、本学には卓越した社会人に限定した大学院や博士課程での社会人受け入れのシステムが稼働しています。個々のプログラムのアドミッションポリシーはありますが、今後は社会人の受け入れに関する全学的な方針を策定する必要があります。その際、履修証明プログラムやエクステンションプログラムで学び始め、大学入学後にその分の単位が認定されるようなカリキュラムや取得単位数に応じた入学年次が決定でき、さらには早期修了も可能にするような柔軟な入学?学修?修了制度を検討する必要があります。
18歳人口の減少で学士課程の学生のみならず大学院生の層の厚さを維持することも困難になります。我が国の大学院生の少なさは欧米水準と比べて深刻な状況にあります。これからの大学院修了生には、深い専門性は当然ながら、加えて解決すべき課題や挑戦すべき仕事を支えるために必要な能力を身につけるための分野を越えた幅広い見識が必要です。研究型大学としてアカデミアを支える人材はもとより、知識集約型社会のニーズに高度に対応できる大学院修了生を世に出す努力も必要です。
独自性のある研究を目指して
大学における研究活動の根源は、真理の探究であり、新たな知の創造です。大学における教育も大学の社会還元もしっかりとした独自性のある研究が基盤です。本学においては、基礎と応用諸科学における研究と開発研究に大別して支援を行っています。後者については後段で述べますが、社会との密接な協業が必要です。一方、前者の研究は投資対象ではありません。つまり稼ぎを期待するものではありません。研究者が競争的な環境の中で資金を獲得しながら、一心不乱に目的に向かって邁進すべきものです。指定国立大学に申請するには、科学研究費助成事業における分野単位で2分野以上、新規採択件数の累計が国内10位以内に入るか、論文に占めるトップ10%補正論文数の割合(Q値)で国内10位以内に入る必要があります。現在のところ、これらの要件はクリアできていますが、引き続き皆様に科学研究費の獲得に努めていただくとともに、インパクトの高い論文を書き続けていただけるよう、大学としてしっかりと研究支援を強化していかなければなりません。最先端の尖った研究の多くは知的好奇心に駆られた専門家集団の中で育まれます。大学が考えなければならない大切なポイントは、当該研究の仲間(優れた教員集団、教育を通じて研究を進める大学院生、および外部資金による博士研究員など)を増やすとともに、総和としての研究時間を確保することだと考えています。そうした観点からは、昨年度採択された「ヒューマニクス学位プログラム」に続いて、さらに多くの卓越大学院プログラムが採択されることを大いに期待しています。また、本学は1期目5年の研究大学強化促進事業の評価に基づき、2期目5年の同事業にも採択されています。その中では、URAの充実をはじめとする研究支援方策も練られています。
開学以来、本学の研究における独自性は学際性と国際性にあると言えます。このうち、学際性については2016年度学長所信の中で「新たな学問分野の創成」と解釈し、単なる異分野間の共同研究の場ではなく、新しい学問分野や領域を積極的に産む場として本学を再定義しました。国際性については、WPI方式がモデルになると考えています。WPI拠点にはいくつかの要件が課されていますが、その中に「研究者のうち、常に30%以上が外国からの研究者」と「事務?研究支援体制まで、すべて英語が標準の環境」という要件があります。これは、新たな枠組みである国際共同利用?共同研究拠点形成にも同趣旨の要件があります。これを学内標準にできれば、外国人教員も言語の障壁なく100%の能力を発揮できる環境が整います。
上述したポイントとは異なりますが、本学の研究に関わる方々に是非意識していただきたいポイントがあります。それは、それぞれの研究をSDGsという観点から見ておくということです。それは、それぞれの研究をSDGsの観点から行うべきであるという意味ではありません。SDGsは、国連が提唱し、2016年1月に我が国でも発効した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」すなわち「人間、地球の繁栄のための行動計画」の具体的な目標です。本学は、持続可能な成長の実現を目指す世界的な取り組みである「国連グローバル?コンパクト」に日本の国立大学として初めて加盟しています。SDGsの達成に向けては、あらゆる分野の知の動員、新たな科学と技術の力が必要です。欧米では、SDGs達成を阻害する、あるいはこれに大きく反する取り組みには支援が行われなくなってきています。大学が果たすべき役割についての活発な議論を期待しています。
独自性のある産学連携を目指して
平成28年度公募の際に指定国立大学への応募を断念したのは、「社会との連携」の要件(下記)を満たしていなかったからです:
- ?経常収益に対する受託?共同研究収益の割合の2011.2015年度の平均値国内10位以内
- ?経常収益に対する寄附金収益の割合の2011.2015年度の平均値が国内10位以内
- ?経常収益に対する特許権実施等収入の割合の2010.2014年度の平均値が国内10位以内
従来から、本学はその研究教育の水準および産官との協働の水準から考えて、上記の指標が予想外に低いことが課題でした。国際産学連携本部を研究推進部から独立した本部組織に改編して、積極的な産学連携活動を進めてきたところ、おかげさまで共同研究受入額が3年連続で10億円を超え、数値はめざましく改善しつつあります。特に、外国企業からの共同研究受入が増えており、今後は世界から研究費を集める大学というブランディングを目指して、海外からの資金調達の方策を強化していく方針です。研究にはこうした企業からの出資がありますが、残念ながら教育への出資、すなわち将来の人材育成への投資は極めて少ないのが現状です。企業側が教育に出資しにくい状況であることは理解した上で、大学側の働きかけの工夫やシステムの改善などについても考えていく必要があります。
Society5.0の実現、SDGsの達成に向けては開発研究センターを中心に積極的に貢献していきたいと考えています。大学としては基礎研究、応用研究、開発研究をバランスよく推進していきますが、この中で最も後発でありながら伸び代があるのが開発研究です。開発研究に関しては、シーズベースからニーズベースへのシフトを加速させるべきです。我が国では、企業との共同研究や大学発ベンチャーもまだシーズベースのものが多い印象を受けます。企業や社会のニーズから出発することで結果的に投資が集まる好循環が生まれるはずです。ニーズベースへのシフトに関して本学の独自性および本学の立地の優位性を活かすためには、指定国立大学法人としての認定が不可欠です。詳細は省きますが、大学が投資して会社型(研究)組織を設立することがニーズ対応のオープンイノベーション研究の実体化に必要だからです。
この3月1日に大学スポーツ協会(UNIVAS)が発足しました。大学スポーツの収益化、学生の安全確保、学業との両立を目指すという設立目的には賛同しますが、本学は参加を見合わせました。学生の成長を一番に考えるべきUNIVASに各競技の学生競技連盟(学連)が大学と同格の正会員になっており、UNIVASは学連の権利に踏み込まないという方針を明確に掲げているからです。これでは、学生の成長よりも試合実施や競技力アップが優先されるおそれがあり、本学が考える大学スポーツの理念とはかけ離れています。学連の位置付けが変わればUNIVASに参加したいと思いますが、それまでは本学はアスレチックデパートメントの理念を実装し、国内に波及させるという独自の立場から、大学にとってスポーツとは何かという問題を社会に訴えていこうと考えています。
独自性のある学生支援を目指して
大学は学生が社会に出ていく前の最後の通過点です。学生にとって大学における日々と社会に出てからの日々には大きな違いがあります。労働とその対価という基本以上に重要なことは、社会性というポイントです。相互に理解し、信頼し、扶助し合うことを前提に集団を作って暮らすという人の根本的な有り様です。大学は、新たな学力?知力を育むとともに、それらをもとに一定の自己形成が達成される場所ですが、加えて次の段階への準備を整える場所でもあります。大学はリベラルアーツや専門を学ぶだけの場ではなく、社会人としてのマインドセットを形成するための場でもあるということです。
そのための具体的な取り組みが必要です。例えば、学生がアイデアを出し合って、キャンパス内で大学のための仕事を生み出し、大学に提案し、有料で請け負う「学内なんでも屋」の仕組みなどを考えてきました。デザイン屋、広報ビデオ作成屋、ITサポート屋、ソフトウェア開発屋、留学生サポート屋、学修支援屋、キャンパス美化屋、イベント企画屋、人材派遣屋など、可能性は山ほどあります。クライアントは、大学であったり、様々な学生仲間であったりします。多様な学生が学ぶ大学キャンパスでは、多様なニーズをいたるところで見つけることができます。このような活動を通して、学生は起業マインドや新たな仕事を生み出す力を鍛えることができますし、授業の合間に最小限の移動で効率よく収入を得ることもできます。仕事を請け負うと、当然のことながら責任や義務も発生します。期限までに業務を終えることはもちろん、納品する物や提供するサービスの質も問われます。こうした過程において困難さや意義を実感できるはずですし、それ以上に他者と協働することの重要性を身をもって知ることになります。学生は教職員に相談したり、アドバイスを受けたりしながら、自分たちがもはや子供ではなく、社会の一員というパブリックな存在であるという意識を徐々に高めていけるはずです。これは一例ですが、このような観点から本学独自にできる有意義な学生支援を考えていきたいと思います。
独自性のある社会連携を目指して
本学と社会とのつながりを考える際の視点は、国際社会とつくばという地域です。また、附属病院と附属学校を通じたつながりであり、様々な企業などとの繋がりです。
国際性が本学の独自性の要であることはすでに述べた通りです。世界大学ランキング等においても、本学の国際性スコアは常に日本の大学の中ではトップクラスです。しかし、十分だとは言えません。スーパーグローバル大学創成支援事業に申請した際は、この点を意識して構想名を「トランスボーダー大学がひらく高等教育と世界の未来」としました。この構想名には、本学における国際性は世界の高等教育の変革を目指すべきだという想いが込められています。実際に、同事業で推進しているCampus-in-Campus構想は本学とパートナー大学とのバイラテラルな協働から本学を含めた9校のマルチラテラルな研究?教育アライアンスに発展し、世界の高等教育に新たなモデルを提示しつつあると言っても過言ではありません。世界のトップ大学はしのぎを削る競合相手であると同時に共同研究や共同学位プログラムの協働相手でもあります。ビジネスの世界では競合相手との戦略的協働のことをCoopetitionと呼ぶようですが、大学間のCoopetitionモデルを本学から世界に向けて提示したいと考えています。
指定国立大学の国際協働に関する要件はすでに満たしていますが、留学生数の伸びが鈍化しているのは懸念すべきところです。留学フェアや海外拠点の活用など、従来型のアプローチも強化する必要がありますが、それに加えてオンラインコンテンツ(MOOCsなど)の活用や海外分校の可能性についても新たに検討していく必要があります。国立大学協会では留学生統一試験の可能性について議論が始まっています。また、留学生の国内におけるモビリティを高めるために、複数の大学で履修を可能とするモデルについての議論も始まっています。そのためには、授業科目のナンバリングが国内で普及し、コンテンツの共有が進まなければなりません。
こうした活動を効率よく進めるためには、各部?部局と国際室の連携が重要になります。国際室には海外とのパイプや交渉の方策が蓄積していますが、研究?教育のコンテンツや教務、学生支援、各種外部資金、産学連携に関する知識は必ずしも十分ではありません。他方、各系、各センター、各教育組織、教育推進部、研究推進部、産学連携部、学生部にはコンテンツや担当に関する知識やノウハウがありますが、海外とのパイプは限られています。両者が有機的に連携したときに、大学全体として最大限の力を発揮することができます。
本学は研究学園都市の中核組織として、つくばの将来像に関しては大きな責任があります。つくばエクスプレスのターミナル駅を中心とした街づくりの方向性については危機感を持っています。単なる東京の衛星都市化を進めて将来空洞化した街を生み出すのではなく、本学は、昨年つくばの有識者よりなる筑波研究学園都市長期ビジョン検討会議が打ち出した「夢を育み、未来を創る街」宣言に沿った街づくりに賛同するものです。それは、知のコロシアムを形成し、科学と技術の実験場としての街を形成していこうというものです。この考え方の具体的なアウトカムは、本年2月に国家戦略特区(内閣府)に関する有識者懇談会がまとめた「スーパーシティ構想の実現に向けて」の最終報告の内容と合致しています。スーパーシティとは、生活全般にまたがり未来社会での生活を先行して実現できる丸ごと理想の未来社会と定義されているからです。一筋縄では行きませんがスマートアリーナ構想のように本学だからこそできる協力を進めていかなければなりません。
本学附属病院は、病院としての独自の、また本学の独自性に鑑みた活動ができるはずです。総合研究型大学の附属病院であり、県内唯一の特定機能病院である意味を重く受け止めなければなりません。昨年度末には、研究機能の強化に向けて、病院に研究員を配置できることとなりました。最先端医療(ゲノム?細胞再生?高難度生殖医療など)の社会実装化を推進するため、デジタルサイエンスなどの異分野との協働による医学研究の新展開に期待をしています。T-CReDOのトランスレーション機能を加速するためには、具体的な目標が必要です。国内外の研究機関及び民間等との連携を推進して、社会の要請を先取りした革新的な予防?診断?治療などにおける新技術の医療導入に向けて医師主導の治験が必要です。県内のフラッグシップホスピタルとして、高難度?高度急性期医療の提供に加えて他の医療機関、特に地域医療拠点病院(セミフラッグシップホスピタル)との連携を強化し、緊急時?災害時における政策医療における拠点機能の充実を図ることが重要です。エビデンスに基づいた人的?物的資源の効率的な配置と不断のアウトカムのフォローアップを進め、永続的で安定的な経営基盤の確立に努めるべきです。
本学附属学校群には、SSHやグローバル人材育成事業に採択されている学校があり、また学校群が独自に進める取り組みがあります。大きな反響を呼んでいるインクルーシブ教育のコンセプトを実体化する夏の合宿は、黒姫からより多くの参加が見込める三浦へと場所を変えて拡充される計画です。このように本学附属学校群の3つの拠点(先導的教育拠点、教師教育拠点、国際教育拠点) 構想は順調に進んでいるように思われます。一方、本学附属学校群は、あらためて総合研究型大学の附属であることを強く意識し、大学の特性を活用することが重要です。文部科学省の報告書(平成13年)には、「附属学校である限り、大学?学部における教育に関する研究に協力するという目的は非教員養成大学?学部の附属学校においても求められることである。大学?学部から独立し、独自の運営をしていくことを求めるのであれば、附属学校であり続ける必然性はないと考えられる。」と述べられています。この言葉は重く受け止める必要があります。ラボスクールとしての附属学校の意義や価値を認識した上で、今後の方策(経営的な改革を含む)、諸活動に期待をしています。
大学における多様性の実現、多様な学生の生活支援、また就職支援を使命として再編成されたDACセンターでは、卒業生?修了生の社会?企業における活躍のフォローアップ調査を行うなど、活動の幅を広げています。今後は、マイノリティだけでなく、マジョリティも含めて、あらゆる差異と多様性を武器に変えるようなエンパワメントを行うセンターへ変革を期待しています。
独自性を支えるための管理運営
運営費交付金の安定的な将来像を描くことは現時点では大変に困難です。したがって、財源を多様化して、運営費交付金への依存度を下げていくしかありません。授業料収入の確保と科研費の確実な獲得はもとより、受託?共同研究などの外部資金、病院収入、各種の寄附金を増やしていかなければなりません。投資による運用も財源多様化の一助となります。規制緩和により寄附金等を原資とする余裕金を収益性の高い金融商品に運用することが国立大学に許され、本学でもすでに運用を始めています。
不動産の運用に関する規制緩和も進み、大学の業務に関係ない用途であっても、将来的に使用予定があるなど特定の要件を満たせば、文部科学大臣の認可を得て、第三者に貸し付けることが可能になりました。これを踏まえて、キャンパス内で各種の試みを始めていますし、東京地区や春日地区の有効活用についても検討すべきです。
本学独自の取り組みとして、本学は大学発ベンチャーに大学で産まれる知的財産権を包括的に譲渡することにより同社の新株予約権を得るという、日本初の産学連携スキームを構築しました。今後、このスキームを使った投資を増やしていこうと考えています。指定国立大学法人になれば、大学発ベンチャーに直接出資することも可能になり、投資の可能性はいっそう広がります。
このような状況下で本学らしい研究と教育を続け、パフォーマンスを高めていくためには、抜本的な人事改革が必要になるでしょう。根本的には教職員の質の向上を目指しながら、国が求める人事給与制度改革への対応はもちろん、適正で持続可能な教職員数と俸給水準、クロスアポイントメントによる外部人材の活用、兼業の扱い、人事におけるダイバーシティ推進などについて、今後の人事のあり方について全学的に議論していく必要があります。特に、URAに代表される第3の職の在り方については、その職種のキャリアパスを含めて、魅力あるものにしていかなければなりません。
議論のためには、IR(Institutional Research)が必要です。リアルタイムのIRデータに誰もが権限に応じて常時アクセスできれば、あらゆるレベルでエビデンスに基づいた意思決定が可能となります。また、自分に関するデータだけ見ても、強み?弱みは見えにくいので、他機関や他組織と連携して「同業他社(者)」とベンチマーク可能なトランスIR(Trans-institutional Research)が構築できれば、部局が研究や教育を強化し、執行部が経営判断をする際の貴重な判断材料となります。
独自性を守るために
大学、特に国立大学は明らかに地方(地域)の文化?社会?経済を支える拠点であり、地方(地域)の産業、医療、福祉、教育などに第一義的な責務を負っています。その上、グローバル化が進む中では、大学は国際社会に直結しています。また、今後大学における教育に求められているのは、未来に向けて真に人が関わらなければならない仕事、あるいは関わるべき仕事を見出すとともに、その仕事において新たな価値の創造に繋がる活動のできる人材の育成です。加えて労働集約型社会から知識集約型社会への変革に対応できる人材の養成が求められています。
大学への公財支出が抑制的であったり、過度に批判的であったりし始めています。また、我が国の大学は国際競争力が低下しているとの論調が目立ちます。世界ランキング100位以内には我が国からは2大学しか入っていません。しかし、1000位以内で考えると日本の大学は89大学入っています。米国157、英国93で、日本は3番目に多いのです。見方を変えると大いに健闘しているとも言えます。社会に対してこうした現在の状況と将来の大学の有り様についての理解を促していく努力が必要です。同時に、大学は様々なステークホルダーと真剣に議論し、それぞれの独自性を活かせるように強化、変革していかなければなりません。
今月30日には天皇陛下が譲位され、5月1日に皇太子さまが即位されます。6月にはG20貿易?デジタル経済大臣会合がつくば市で開催されます。9月からは約1ヶ月半をかけてラグビーワールドカップ2019日本大会が日本各地で開催されます。来年のオリンピック?パラリンピック大会を支えるための予行演習にもなります。9月に第74回国民体育大会、10月に第19回全国障害者スポーツ大会が茨城県で開催されます。本学が主体となって行う事業も多々あります。G20貿易?デジタル経済大臣会合を挟んで行われる2つのデジタルサイエンスに関わる国際会議には多くのオピニオンリーダーの参加が予定されています。また、今年度はTGSWに代わり、より大きな目的を持って10月2日から4日にかけてつくば国際会議場で開催される「筑波会議」に各方面から注目が集まっています。
学位プログラムを充実させる新カリキュラムがいよいよ学群?学類で始まります。また、大学院の学位プログラム化の準備も概ね整いました。教職員皆様のご尽力に改めまして感謝を申し上げます。未来の学生の姿を思い描きながら準備されたこれらの教育課程を是非学生たちに享受して欲しいと考えています。そして我々は様々な出来事を経験しながら、明日の課題を見据えつつ、日々の研究と教育と学生にじっくり向き合って行きたいと考えています。